FIRST ANCHOR
ブランド アハン声 ちゅぱ音 運命
Forst 有り

始まりは空の彼方、エロだけムービー3Dアドベンチャー。

何?と何故?で埋め尽くされたストーリーが次第に紐解かれ、
末に感想を述べるのがサスペンス的アドベンチャーの楽しみ方なら、
作られた何?と何故?に考察するのがSFの楽しみ方。
製作者が提供したSF世界の考証を、読み手が考察する様は、
ある意味推理小説を読む楽しみと共通するのかもしれません。
製作者側の考証に対するアプローチが、広ければ広い程深ければ深い程、
数々のクエスチョンに対して翻弄されながらに陶酔出来る、
これは優れたSFや推理小説に見られる共通項ですね。

しかし、プロットの深淵さが全ての作品を面白くする訳ではありません。
考えれば簡単にわかりますが、
原因に対する結果を提示する前に、結果に至る過程を説明しないことには、
考証に対する考察の正しさを証明出来るはずがありません。
そういった、プレイヤーが楽しむべき要素を放棄して物語の結果をゴリ押しした、
あえて命名するなら放置系フィクションアドベンチャーしか作らなかったのが、
Forstの前身であるForestorなら、
Forestorから別ブランドを立ち上げたのは、
アドベンチャーゲームとしての楽しみをよりプレイヤーに提示すると共に、
本来ならば深淵なプロットであることを証明する為の必然、
ぶっちゃけシナリオライターのプライドの回復の為、だったのでしょう。

以上はあくまで俺の勝手な憶測なんですが、
ファーストアンカーをプレイした感想は、その憶測を裏付けるに充分な内容でした。
Forestorが今まで作ってきたものとは、
細かな褒めるべきポイントはあるけど、所詮は3Dムービーの垂れ流しであり、
そういった無駄なゴージャスさが、主に容量の限界でストーリーを綴る上の障害になった、
CD四枚組のくせに話はカラッポだった「DOLL」を見てもらえれば明らかでしょう。
このForstが描く処女作「ファーストアンカー」では、ストーリー上での無駄なムービーを廃し、
普通のアドベンチャーゲームと同じようにテキストで物語られていきます。

「ファーストアンカー」はForstの処女作です、
この「無駄なムービーを廃する」というのは明確な方向性と受け取れます。
しかし処女作なはずの「ファーストアンカー」は、宇宙を舞台にしたSF、
今の時代にゴージャスなSFのCGを見慣れた俺からしたら、
ここでムービー使わないでどうすんだよ!?と叫びたくもなります。
一枚絵のCGを背景に使い、ハイ宇宙ですよ戦闘機ですよーとやられても、
目が肥えてしまった今ではしみったれた演出としか映りません。
「DOLL」に見られた、廊下を歩くだけなのにムービーを使う、
そんな無駄を省いて、ぎりぎりまでチューンアップするのは努力と言えなくもないですが、
軽量化をお題目にしたら穴だらけになった俺のミニ四駆を思い出すのは何故でしょうか。
必要なものまで削る行為は、ひたすらビンボ臭いです。

演出方面でSFが感じられないならば、
汚名挽回を図った(であろう)シナリオ方面はどうなんでしょう。

このゲーム、宇宙を舞台にしてる事は先に述べました。
未知の敵に襲撃され、孤立した宇宙船の中で繰り広げられる物語、
この設定がシナリオの根幹を成しています。
混乱した宇宙船の中で、様々な仲間と敵対したり信頼を深めたりするのですが、
……これって、「吹雪で孤立した山荘」とどう違うの?
SF考証を全く提示しないシナリオ、何の為の宇宙?
百歩譲って、考証に対して考察する楽しみがあるならこのゲームを「面白かった」と言いましょう、
でもファーストアンカー、SFを感じさせる要素が未知なる外敵と宇宙服コスプレ
ってサイエンスフィクションにおける一般的な要素であろう宇宙人と宇宙服
記号というより化石になったそれら要素だけで物語を成立させても、
オタクが納得する訳がないでしょう。

見かけはSFその実なんちゃってかまいたちの夜が最も的確な表現と思われる本作、
確かにストーリーはなんのヒネリも無いですが、
今までForestorが作ってきたテキストが何も無いアドベンチャーとは打って変わって、
状況を描写するテキストはなかなか臨場感に溢れてます。
宇宙船という名の密室におけるパニックを、個人の性質其々に回避しようと試みつつも、
結局は主人公に身を委ねてしまう……。
個人に焦点があてられ過ぎて、集団がパニックに至る心理を書ききれて無いのが残念ですが、
非常に男性的な「保護欲」を満たしてくれるテキストは、
そういうのがイケる人は充分萌えるんじゃないでしょうか、3D女だけど。

で、ファーストアンカーの一番の見所はこのテキストだったりします。
「出来がいいから」なんて単純な理由じゃなくて、
Forestorから脱皮しようと必死に足掻いてるライターの姿が垣間見えるからなんです。
意地の悪い言い方でスマンが、それだけのインパクトをForestorが与えたのも事実、
ファーストアンカーのテキストが段違いなのも事実、
そして、脱皮したのがテキストだけなのも事実なんです。
突然放り出されるストーリー、ストーリーに絡まない演出、フルムービーのエロetc…
そこらじゅうにForestor臭がプンプンと。
じゃあ一体、Forstがやりたかったゲームとは何なのか、
継承したエロシーンと進化したストーリー、それは果たして進化と呼べるのかって事を、
Forst次回作の「ゲマトリア:コード」を含めて考えてみようと思います。

ゲマトリア:コードに続く

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